2002年に米国『糖尿病治療』誌の25巻に掲載された論文に、肥満のヒトを対象にした共役リノール酸(以下CLA、このときは特に純品のt10c12という形の異性体が用いられている、これがCLAの本体だと考えられているからだ)の無作為抽出偽薬対照試験が報告されている。
12週間の試験の後、とりあえず体重は有意に変化したのだが、インスリン抵抗性にも有意差が出てしまったのだ。しかも悪いほうに。さらに付け加えれば、HDL-コレステロールも有意に下げてしまった。病気になったわけではないが、およそ良いとはいえない変化である。
同じ著者らによる別の報告でもC反応性たんぱく質が上昇したりしているが、ヒトにおける副作用を報告しているのは、現在のところこのグループだけのようだ。それは一応記憶に留めておくとして…
他の多くの研究をまとめてみると、CLAでは体重が減らないことは、もうかなり確実なことである。t10c12という異性体の純品なら効くかもしれないのだが、上に述べたような副作用があることを覚悟しなければならない、というわけだ。
全て人間を対象にした実験の結果である。日本人じゃないけれども、だから関係ないという人はいないと思う。
そう、CLAが効くとは誰にもいえないのである。しかも、その結果病気にはならない、とも誰にもいえないのだ。
もちろんいろいろな立場がある。いわく、用量が少なければ効果を期待でき副作用もない、というような。
しかし、副作用のない一番高い用量を極量に設定するのが定法ではないだろうか? 確実に効果を期待できる薬物や、抗がん剤のように他にたよるものがないという場合は別であるとしても。
「ああ、副作用を我慢しつつ、現在の生を生き延びるわたしはなんと幸せな存在であることか。」
でも、こういっちゃなんだが、CLAは、たかがデブの治療薬なのである。しかもヒトで効いたという確かな証明がないのである。そういうのはクスリとは呼べないし、他人に勧めるなんて、もう、人間性見たぞーといわれるのが落ちである。
もちろん、わたしはCLAが生化学的に面白い化合物だという点は否定しない。別に狂ってもいないし普通に牛肉や牛乳に含まれている。それが起こす生体の反応を考えると、とても面白い化合物であることは疑いない。もし機会さえあれば実際に自分で直接実験してみたいくらい、てなもんである。実験科学者を自認する人ならこの感覚はわかってもらえると思う。
それと、人間に使えるかどうかとはまったく次元の違う話なのだ。どうしてこんなことをわざわざ書かなくてはいけないのか。研究者にはあまりにも自明のことのような気がする。
お願いだから、何も知らない人に勧めたりしないでほしい。だまって研究してればいいじゃないか。