独立行政法人になったといっても、国立健康・栄養研究所は厚生労働省からの予算で運営されている国家機関である。
でもインターネットだと、どうも読み手の側にあるインターネットへの不信感からか情報に対する信頼性がイマイチなようで、そこにつけこんで(かどうかは知らないが)、民間の医師グループが科学的根拠に基いた情報を出版したりする。本のほうがネットよりも信頼が得られやすいからだ。
そこで、さっそく取り寄せて読んではみたが、HFNETの情報を読んでいるほうが絶対に良いといえる程度のレベルのものだった。引用文献が一般読者にとってどれほどの障害になるのか、想像できないでもない(わたしも文献だらけの文科系の専門書は、信頼はできても買うことは躊躇することが多いので)が、それでは科学的根拠のほとんどを無意味なものにしてはいないだろうか? 著者が医師であるというような根拠こそEBMが真っ先に疑ってかからなければいけないはずなのに。だから、HFNETへの信頼性の疑義は、HFNETの正当性の現われなのだ、とまで言ったら冗談にしかならないが。
とりあえず、出した者勝ち? ところが、いくつかの項目は勉強不足だし、そうでなければ、スポンサーがいるのかといわれかねないくらい大盤振る舞いしているように感じる項目もある。別にいてもかまわないのだが。後書きを読むと、こんなものを飲むくらいなら野菜と果物を摂ったほうが全然ましだと断言しているので、立場を異にしているわけではない。だったらそれを本のオビに書いたら良いじゃない? とは思ったけど。
そんなことをしたら、正直ではあっても、肝心の売上が伸びないわけですね。
HFNETでは記憶する限り、そこまで露骨に健康食品を差別していない。買いたいヒトにとって、間違いをできるだけ少なくしたいという思いであふれている。野菜や果物の摂取ががんに効いたというたくさんある疫学調査などにはふれずに、オタク心を害さないように心がけてでもいるようだ。
ただ、栄養学的には難しい問題が、そこにはある。
抽出された成分のカプセル錠(ビタミンでもカロテンでも)を飲むのと野菜や果物をを摂取するのでは、前者は飲んだ量がかなり正確に把握できるが後者は推定でしかないという問題と、前者(カプセル)は医薬品のように精製された成分既知の物質の摂取であるが、後者(野菜と果物)は何が有効なのかを知るのが難しい。
後者の例として、最近食物繊維は大腸がんにも予防効果がないという論文が出た。それまでは、他のがんにはダメだが大腸がんにだけは、と一縷の望みを託された状態だったのだ。
この論文を読むと、年齢性別などの因子の影響を除いたあとでも、食物繊維は確かに効果がある。だから従来の論文では効果ありと見なされていたわけだが、問題はその後で、食物繊維は野菜や果物に多いので、野菜や果物に含まれる抗がん物質(と思われる因子)の影響を除いていったところ、食物繊維単独では効果がないという結論に至ってしまった。
結局、野菜や果物を食べるしかないという結論にしかならないのだが、「野菜」も「果物」も色々な種類があるのは明らかなので、ほんとうにそんな漠然とした答しかないのか、ということになる。
人間の集団自体が多様性を内包しているので、それも充分にありそうな解ではあるが、そうなると年齢性別別に最適解をだしてほしいということになって、でもそこまでいくと、聞き取りによる食事調査のような方法ではもうお手上げということなのだろう。だからといってすべての食事を何年にもわたって正確に記録するなんて、何万人の被験者相手には不可能だ。
でも野菜にもより効果の高い野菜があっても少しもおかしくない。効果が高いのならそれは単一の成分なのか複数の成分なのか、ホメオパシーでないなら、何らかの実体があるはずだ。ではそれを抽出精製したものはなぜ効かないのか? 極めて多くの物質の混合物(つまりまるのままの野菜)でないと効かないというのなら、その理由が説明できなければならない。できないのなら精製したものでも良いはずだ。明らかに根拠という意味では未知の領域が存在しているに違いない。
そして、健康食品というのは、その混沌とした領域に存在している。それでいろいろな考え方が並立することになる。
整理してみよう。
- 野菜と果物を多く摂取するヒトはがんになりにくいようだ
- それが交絡因子と専門的には言うのかしら、要するに野菜や果物の摂取と一緒に動くほかの因子のためではないと仮定して
- 野菜や果物にはがんを抑える物質が含まれている
- 単独または複数で有効なその(それらの)物質は、野菜や果物に含まれる程度の微量で有効である
- 実際に抽出精製された、がん細胞の増殖を抑制する物質が多数存在する
ということは、
- 単独あるいは複数の有効成分を的確に精製したカプセルは有効である可能性がある
ホロンのような分解したら生物ではないという立場(科学的には異端と断言してもいい)ではない、通常の還元論の立場に立つならば、そのような結論しか出てこないのではないか。
もちろん最近の否定的な論文やその他の実験において、抽出物(特に脂溶性のもの)は抽出の過程で化学変化を受ける可能性が高い(遊離酸が塩になったりといった)ので、自然の状態のものに比べて効果が低い、というか吸収が悪くなるという報告がなされているので、そういうことはクリアした上でのことではあるのだが。
実際、ナトリウム塩とカリウム塩では効果が異なるような例はいくらでもあるので、健康食品にも充分にありそうな話ではある。ではその具体的な解決法、どころか現実さえ把握していないのだから、その信頼性はかなり低くなるということは言ってもいいかもしれない。
野菜や果物に含まれている真の有効成分を、野菜や果物に含まれているそのままの状態でカプセル錠にして、効果を検証できればいいのだが、それができないことをどう考えるかで、けっこう立場が分裂しているかもしれないとも思う。だれだってそのままに抽出したいと思うわけだから。
でもさ、どうでもいいけど、どちらも少しだけ欺瞞チックになってない?